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ドラフトの指名順位はどのくらい重要なのか
プロ野球の新人選手選択会議(以下 ドラフト会議)が10月26日に迫ってきました。大注目の清宮幸太郎選手をはじめ、石川選手、安田選手、増田選手、ヤマハの鈴木選手など今年も目玉選手がずらりと並びます。
ところがドラフトで上位で指名されても必ずしも活躍できないのがプロの世界。反対に下位指名から這い上がって日本代表を果たした選手も数多くいます。ドラフトの下位指名と指名漏れの当落線上にいる選手に注目するのも一つの楽しみ方です。
野球の世界では「ドラフトの順位は活躍に関係する」という人もいれば「ドラフトの指名順位なんて関係ない」という人もいます。これは非常に難問です。桑田、清原、松井、松坂、ダルビッシュのように鳴物入りで入団して活躍する選手もいれば、イチロー、金本、掛布、秋山、工藤のように下位指名から這い上がる一流もいます。
これまでは、個人の感覚や具体例だけで考えられることが多かった話題ですが、今回はドラフトの指名順位と活躍の関係を統計的に分析してみたところ面白い結果が得られました。このような相関による分析は他に例がなく、ここが初めてだと思われます。
今回ドラフト分析で採用するルール
プロ野球において選手の実力を客観的に計れるのは年俸です。しかし年俸は正確な額がわからず、球団の事情に左右されます。そこで今回は野手なら打席数、投手なら投球回を用いて「どれだけ一軍の試合に出場したか」を図る材料にします。
(なお打席と投球回の比較は、規定打席と規定投球回に割合に合わせ、投球回を3.1倍にすることで対応しています。)
ドラフトの指名順位は12球団合わせて「何人目で呼ばれたか」を用いています。1位指名のみくじ引きがあるので、そこは競合した球団の数で順位をつけています。これで指名全選手に1から約70までの順位が付きます。
そして今回は2008年と2009年のドラフトの結果を使います。それ以前は高校生ドラフトが分離しています。2011年以降の指名選手はプロの経験年数が少ないため、正確に実力を測れないため使用していません。
今回はドラフトの指名順と試合出場順の2つの相関関係をスピアマンの順位相関係数を用いて計算しています。参考リンク スピアマンの順位相関係数
2008年のドラフトはほとんど相関なし
2008年のドラフトは田沢純一がメジャーに流出し、不作と言われましたが、大田泰示選手をはじめ、日本ハムの大野、西武の浅村が指名され、長野選手がロッテの入団を拒否した年です。ところが、有馬、近田、土屋、中崎雄太、甲斐、伊藤準規、宮本武文などの高卒好投手が壊滅。彼らの中には中学時代に日本代表として好成績を残した者も多かったのですが、大半が3年以内で戦力外になりました。
逆に杉谷、中島卓也、摂津、西勇輝、育成の西野など下位指名選手が下剋上を果たしました。この年の順位相関係数はなんと
0.191
という驚異の数字が出ました。相関係数は-1か1の値を取り、0なら相関なし、1なら正の相関(順位が良い選手は必ず、試合出場も多い)そして、-1なら負の相関(順位が良い選手は必ず試合出場数が少ない)となります。
0.191はかなり0に近いため、指名順位と出場数にほとんど関係はありません。ドラフト1位がこうも壊滅しては当然の結果かもしれません。不作の年とはいえスカウトの目力を疑ってしまいます。
ドラフト1位が順当に活躍しても相関係数は低め
2009年のドラフトは花巻東の菊池投手を中心に、筒香選手、今宮選手、岡田投手を中心に高校生の好素材が目立ちました。長野選手が巨人に指名され、下位では大島洋平選手、増井投手が指名されています。この年は上位指名の選手が順当に活躍する例が目立ちます。
この年の順位相関係数は0.438でした。0より大きいということは少なくとも、「指名順位が良いほど活躍しやすい」傾向にあるとわかります。とはいえ、0.438は1よりも0に近くそこまで強い相関は見られません。
相関係数は0.2から0.4に落ち着くはず
たまたま両極端な年に当たってしまったのは少し残念ですが、これで上限と下限が見えてきたと考えることもできます。普通の年のドラフトなら相関係数は0.2から0.4に収まるはずです。
「ドラフトの順位は活躍に大いに関係する」「ドラフトの指名順位なんて関係ない」という意見はどちらも間違いで、緩やかな相関関係があるという結論が得られました。
「高卒は未完成だから、大学、社会人出身と比べて相関関係が無い」という仮説も立てましたが、両者に有意な差は見られませんでした。増井、大島、清田はいずれも、社会人を経て下位指名されていますが、すっかり大化けして一流選手になっています。
「下位指名なのに活躍した」はおかしい
これは野球をあまり知らない人向けの話です。よく「イチローはドラフト下位指名だったし、スカウトは実力を見抜けなかった」なんていう話を野球の素人がしていますが、大きな間違いです。一般的にドラフト最上位は投手に集中する傾向があり、その中で高校生野手の4位は高評価です。
イチローが指名された1991年のドラフトで、3位以内で指名された高校生野手はたったの7人です。全国の高校生野手の中で10本の指に入ると思えばかなり高い評価に見えませんか?
この記事を通して最も言いたいのは、野球にあまり詳しくない人でも下位指名にもっと目を向けるべき、ということです。新聞やテレビでは大きく名前は出なくても、下位でプロに入って活躍する例はあります。しょっちゅうあります。皆さんが思っている約5倍くらいはあります。
全員を見ることができなくても、地元出身の選手をYoutubeで検索してみると、面白い発見があるものです。
ドラフトは波乱が起きるから面白い
ドラフト1位で指名しても半分は数年で消えていく世界です。5球団競合したからといって活躍するとは限りません。そういう面では2016年の阪神の大山選手の1位指名はとても意義のあるものだったと思います。ドラフト直後は金本監督へ批判が集中しましたが、大山選手の活躍もあり、今では一定の評価を得ています。
ドラフトで一番大事なのは「その選手が何位で取れるか」ではないのです。一番大事なのは「その選手がどれだけ欲しいか」です。「大山は2位でも獲れただろ」という批判は全く反論になっていません。
下馬評が低い選手が1位とはいかずとも2位、3位で指名されるのがドラフトの面白さでもあります。今年のドラフトも各球団の意外な指名に注目しましょう。