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人間はかなり非合理的な生き物だ
人間は基本的に自分に有利になるように行動する動物と言われ、頭を使って合理的に行動する者だと思われています。しかし、私たちは日常生活でかなり頻繁に非合理的な行動をとっています。それは知らず知らずのうちに取っているもの、わかっていながら取っているものがあります。
全ての行動が合理的であれ、などとは私は言いません。やはり問題なのは知らず知らずのうちに非合理的な行動をとっていることです。合理的でないと意識していれば、それは本人の自由なので何も問題はありません。
しかし自分が合理的だと思ったり、特に何とも思わなかったりするものが非合理的だった、というのは、長い人生の中でちりも積もれば大きな損失になります。
今回は多くの人が知らず知らずのうちに陥ってしまいがちな数字の罠を中心に、人間の非合理さを示す事例を10個紹介したいと思います。
人間がいかに非合理的かわかる10の事例
1 3000円のネックレスより3000円のチョコレートのほうが嬉しい
あなたが恋人から何の前触れもなく3000円のチョコレートを渡されたらどう思うでしょうか。あなたはかなり高価なチョコレートを貰ったことを喜び恋人に感謝するでしょう。
その一方で、あなたが恋人から3000円のネックレスを渡されたらどうでしょうか。3000円のネックレスなんて安っぽいと思う人のほうが大半でしょう。
同じ3000円のものをあげているのに満足度はだいぶ違います。これはかなり非合理的な話ではないでしょうか。あまり良くない話ですがネックレスのほうがメルカリで転売できることを考えたら、ネックレスのほうがお得です。結局、渡されたものが通常の相場と比べて高いか安いかが満足度を大きく決めるということです。
2 1000円割引されるより500円のおまけをもらう方が嬉しい
ここ最近ではスマートフォンの各社によるクーポンや無料券が話題を呼んでいます。auのマクドナルドのハンバーガー無料や、ソフトバンクのアイスクリーム無料がきっかけで店には大行列ができています。
人々は無料に弱い、という見方もできますが、結局人間は「安売りされるより少しのおまけをもらったほうが嬉しい」ことがわかります。これもかなり非合理的な話です。
たかが数百円のハンバーガーやアイスクリームのために並ぶのに、肝心のスマホの会社は適当に選んでしまうという人も多いのではないでしょうか。少々のおまけにつられず、千円でも2千円でも安いキャリアを選んだ方がずっと合理的です。
3 日本人の1000人に1人がどれだけ大変か
商売をしたり、本を出版するときに「日本人の1万人に1人が買ってくれれば十分なんだ。俺の知り合いのうち一人が買う計算なら余裕だな」などと、高をくくっていないでしょうか。100人に、いや10人にものを売るのさえ、最初は苦労します。
冷静に考えれば日本人の1万人に1人でも1万人はいます。どんなにいいものを作っても日本人の1万人に1人も買ってくれる商品は少数派です。質の悪い商品なら10万人いても誰一人買ってくれないことを自覚しましょう。
4 1万円を得るのと1万円を失うのは違う
あなたが賭けを持ち掛けられたとしましょう。あなたがじゃんけんに勝てば11000円貰えます。反対に負ければ10000円を失います。あなたはこの賭けに乗るでしょうか。
冷静に考えればかなりお得な話なのに、実際に似た状況に立つと勝負に出れない人を数多く見てきました。人間は非合理的なことにリターンよりもリスクに注目してしまいがちです。
同じ金額を得るのと、同じ金額を失うのでは人間の感情の振れ幅は大きく違います。人間はお金を失うことに必要以上に恐怖を感じます。投資の世界でも慣れていない人は正しくリスクを取ることができずに、長い目で損となることをしてしまいます。
5 19800円と20000円に大きな差を感じる
商品の価格で1980円、29800円というのをよく見かけます。きりよく2000円や30000円にすればいいのに、と思いがちですがこれも人間の非合理性を利用しています。視覚効果といって、数字の最初の桁がいくつかで、数字の与える印象が大きく違います。
たった200円、2000円値下げするだけで、安く感じる人が増えて買ってくれるのは、店にとってはかなりお得です。(最後の桁を9にしないのは、八は末広がりを連想させるからと言われています)
6 株が大暴落して株をやめる人たち
株やキャピタルゲインを狙う投資では、安く買って高く売るのが基本です。合理的に考えれば株が大暴落したときこそ絶好の買いのチャンスです。ジョージソロスは暴落で客の預かり金を減らした際に「たった2割しか損していないのに辞める人は馬鹿だ」と言っています。投資の神様バフェットもリーマンショックの際に「肉が安ければ買うように、私は安いから株を買うのです」と言いました。
しかし多くの人は大暴落で損をすると、投資から手を引きます。目の前にはすごいチャンスが転がりこんでいるのに、金を失う恐怖で合理的思考ができず、チャンスを逃してしまうのです。
7 合格率80%と不合格率20%の違い
同じことでもネガティブな言い方をされるか、ポジティブな言い方をされるかで印象が変わります。受験生に「あなたの合格率は80%」というと安心しますが「あなたは2割の確率で不合格」と言うと急に不安になります。合理的に考えれば同じだとわかるのになぜか騙されてしまうのですね。
同じように人間は後に言った言葉が強く印象に残ります。「大学生がキャバクラで働いている」というのと「キャバ嬢が昼間大学に通っている」ではだいぶ与える印象が異なります。
8 自分は損してもいいから相手に得させたくない
有名な心理学の実験の例をご紹介しましょう。目の前に1万円があり、あなたは知らない一人の男性と1万円を山分けします。ただし1万円をどう分配するかは相手の男性が決めます。あなたは承諾すれば1万円を山分けできますが、拒否すれば2人とも一円ももらえません。
ここで相手の男性があなたに1000円しか渡さず、残りの9000円を貰おうとしました。合理的に考えれば1000円でも貰えるならありがたい話ですが、一定数の人は拒否して一円も貰えません。
どうせ見ず知らずの人なのですからとりあえず貰っておいて損はないはずですが、「相手ばかりがいい思いをするのはずるいし、なめられている」という非合理的な心理が働くのです。
9 一度手にしたら返品しにくい
これは保有効果とよばれるもので、自分が一度手にしたものは、必要以上に愛着を感じてしまうのです。ある靴のネット販売業者が、「半年以内に返品すれば全額返金します」というキャンペーンを始めたところ、注文が激増しました。驚くのはそれで返品する人がほとんどいなかったということです。
全額返金キャンペーンが無かったら買わなかった層がほとんどです。買う時に「半年後に返せばいいや」と思っていた人も、使っているうちに愛着がわいて返品しなかったという説が有力です。
10 1日当たりコーヒー一杯の値段が安く感じる
「この浄水器、お値段は20万円」と言われるとだいぶ高く感じるのに「この浄水器、最低2年間の保証付き、毎日使っても一日当たりたったの300円」と言われるとだいぶ安く感じませんか。
これは悪徳の訪問販売でよく使われる手口で聞きなれている人も多いのではないでしょうか。非合理的な人もいるもので本当に安く感じて騙されてしまう人もいるのです。
これは冷静になって他の商品と比べれば防げるミスです。現代人がとてもお世話になっているスマホでも1日あたり300円もしません。スマホより浄水器が高いなんて合理的に考えればおかしいとすぐわかります。
非合理性がなかったらこの世は機能しない
いかがでしょうか。人間は想像以上に非合理的な生き物で、それを利用しようとする人が大勢います。では、人間がもっともっと合理的ならよりよい社会になるでしょうか。おそらくそれはないでしょう。
人間がすべて合理的な選択をしたら、多くの会社がつぶれます。訪問販売はすたれ、宝くじは売れなくなり、営業の仕事も激減します。パチンコ、証券会社、銀行、コンビニもかなりの苦境に陥ります。どんなにいい商品を出しても、すぐに競合が生まれ一度ついた顧客は一斉にいなくなります。これでは安心して将来設計をすることも困難です。顧客との「信頼関係」という概念も消失するでしょう。
よくわかんないけど皆使ってるからこの商品、とりあえずいつも買ってる商品を買おう、営業マンの人柄がいいから買ってみよう、こういう非合理な人が一定層いるからこそ世の中が回っていることも、忘れてはいけません。