目次
高校通算ホームランの裏側
早稲田実業の清宮選手の高校通算ホームランに大きく注目が集まっています。このペースでいけば高校通算ホームランは100本を超え、その勢いで歴代最多記録を作るのではないかと言われています。(現在の最多記録は107本)
しかし、この高校通算ホームランという数字はなかなか厄介なもので注意してみなければいけない数字でもあります。高校通算ホームランは文字通り、高校3年間(実際に野球部に所属するのは3年の夏までなので2年と3カ月ほど)の間に打った本塁打の本数です。高校通算ホームランには公式戦はもちろん、練習試合に打った本数も入ります。対外試合のみカウントされるので、紅白戦はカウントされません。
高校通算ホームランが多くても必ずしもプロで活躍できない理由
もちろんこの数字は多いに越したことはないのですが、この数字が多ければプロに必ずいけるわけでもありませんし、必ずしも長打力があるとは言い切れません。
ここで歴代の高校通算ホームランの主な上位選手を見てみましょう
名前 通算本塁打 ()内は甲子園で打った本数
山本 大貴 107本
黒瀬 健太 97本
伊藤 諒介 94本(1)
中田 翔 87本(4)
大島 裕行 86本(1)
横川 駿 85本
鈴木 健 83本(1)
中村 剛也 83本
伊奈 龍哉 74本
岡本 和真 73本
高橋 周平 71本
奥浪 鏡 71本
城島 健司 70本
平田 良介 70本(5)
参照 http://kousien.info/modules/pico/index.php?content_id=2
この上位全員がプロに入ってホームランを量産しているかと思えばもちろんそんなことはありません。この中でプロで大成したのは、中田、中村、城島くらいです。それ以外だと平田良介選手が侍ジャパンに選ばれてこれからが楽しみです。
山本、伊藤、横川選手はプロにも言っていません。
ここでいよいよ高校通算ホームランがあてにならない理由について考えてみましょう。
1. 高校のグラウンドの大きさが異なる
プロに行けなかった3選手はいずれも兵庫県の神港学園高校の出身です。この高校は甲子園に3回出場したことがあるのですが、別の意味で高校野球の世界では有名な高校です。
有名になった理由は、野球部のグラウンドのレフト側がとても狭く、普通の球場ならレフトフライのあたりがすべてホームランになってしまうことです。
練習試合の半分くらいは自分の高校のグラウンドで行われますから、そこでしょうもないホームランを連発している、というわけです。これではいくら高校通算ホームランが多くてもプロのスカウトは興味を示しません
2. 高校ごとのチーム事情が大きく影響する
高校ごとに練習試合の数は大きく異なります。有名な強豪校となれば招待試合に招かれるなど、多くの練習試合を行うのが一般的ですが、田舎の無名高校や離島の学校は練習試合をするのも一苦労です。
昔は練習試合が今ほど多くなかったので、清原選手(高校通算ホームラン64本)今の時代に高校生ならもっと打っていたに違いありません。練習試合の多い大阪桐蔭のような学校では当然高校通算ホームランは激増します。上のランキングでは、中村、中田、平田の3選手が大阪桐蔭高校の出身です。
また清宮選手は1年の春からレギュラーに抜擢されていますが、1年生はどんなに早くても夏から、もしくは秋からしか試合に出れないような高校も存在します。その数か月の差が高校通算ホームラン数に響いてしまうのです。
3. 低レベルのピッチャーから本塁打を量産しても意味はない
公式戦の3回戦くらいまでだと、ストライクがろくに入らない、変化球も切れていないような低レベルの投手との対戦することもあります。練習試合では新しい球種を試したり、普段ベンチに入らない控え投手と対戦することもあり、公式戦とは本気度が違います。
ドラフトにかかるような打者ならそんな低レベルの投手を攻略できて当然です。バッティング練習でいくら打てても、本番で生きた球を打てなければ意味がないのと同じです。
逆に甲子園の試合や強豪校との対戦で打つ本塁打は、投手のレベルを考えれば大きな意味があります。
4. 成長する時期には個人差がある
人それぞれ体格の成長する速度は異なります。高校1,2年生のときは体ができていなくても、3年生で急成長することはあります。
阪神の佐藤選手を始め、高校時代は無名でも大学に入って急激に長打を打てるようになるバッターも存在します。体格だけでなく技術でも同じことが言えます。ポテンシャルはあっても良い指導者に恵まれず埋もれていた選手が、大学でいい指導者に出会い、才能が開花するケースもありますし逆にいいコーチがいなくなると急に成績が落ちることもあります。
指導者に恵まれずに悩んだスーパー一年生
かつて帝京高校の1年生として甲子園のマウンドにあがり、時速148kmのストレートを投げ、スーパー一年生と呼ばれた伊藤拓郎というピッチャーをご存知でしょうか。
彼は中学時代からプロのスカウトの注目を浴び、東練馬シニア所属時には、「今の時点でもうドラフト候補」なんて言われていました。
しかし彼は二年後、急速を大きくさげ、プロに高い評価を受けることもなく、ドラフト9位で横浜になんとか入団し、プロで1勝もあげられずに数年でプロを引退しました。
彼が高校二年生になるとき帝京の投手コーチが退任しました。伊藤選手は良い指導者に恵まれず、球速を追い求めてフォームを崩し、結局元の球速に戻ることはありませんでした。
指導者に恵まれて一気に成長した例も
他の例では、あのイチロー選手もプロに入団した当初は1軍の監督に振り子打法が認められず2軍暮らし。3年目に監督が代わりレギュラーに抜擢されいきなり。シーズン210安打の日本記録を樹立、その後の活躍は言うまでもないでしょう。
そのくらい指導者との相性というものは大事なのです。下級生時代には無名でも、体格が急に成長したり、良い指導者に巡り合って3年生になって才能を開花させ、ドラフト候補まで上り詰めた選手も多くいます。
高校時代に一本もホームランを打っていないのにプロでホームラン王をとった小笠原道大選手のような例もあります。他にもプロで通算ホームラン歴代4位の門田博光、阪神の4番掛布、金本、日本ではホームラン王争いをしたイチロー、トリプルスリーを達成した柳田はいずれも高校時代ほとんどホームランを打っていません。
彼らはいずれも左バッター、引っ張ったホームランが多い、スイングがダウンスイング気味、などの共通点があります。彼らのスイングを見ると何か似ている部分があるのは、何か理由があるのかもしれません。
チーム事情で伸び悩んだスラッガー
プロで大成できないのは必ずしも本人だけに原因があるわけではありません。埼玉栄高校時代に通算86本塁打を放ち大きく注目を浴びた大島裕行選手はドラフト1位で西武に入団し、和製大砲として期待されましたが、チーム事情もありあまり活躍できませんでした。当時の西武は選手層が厚く、カブレラ、中島、GG佐藤、栗山、中村剛也、和田一浩、松井などクリーンナップを打てるバッターがずらり。守備や走塁でアピールできない大島は苦しみました。
村田修一をはじめとする厚い選手層に阻まれている巨人の大田(高校通算55本塁打)、岡本(高校通算73本塁打)も同様です。若手が積極的に登用される環境で結果を残した、大谷、筒香、鈴木、中田、山田とは対照的ですね
高校通算ホームランはあくまで評価の一部
長打力を見るなら高校通算ホームランをみるよりスイングスピードや打球の速さを見るのが、一般的です。いくら遠くに飛ばせても守備や走塁があまりにひどいと評価はガタ落ちです。
他にもスイングの軌道、故障歴、勝負強さ、フライの滞空時間、変化球への対応、苦手なコース、練習態度、選球眼、あらゆることが評価の対象になります。清宮選手の魅力は高校通算ホームランの多さだけではありまえん。スイングの柔らかさ、インコースの裁きのうまさ、選球眼、豊富な大舞台の経験、甲子園での実績などもプロのスカウトが評価しています。
くれぐれも高校通算ホームランという数字だけに惑わされないように気を付けましょう。