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偏差値は人を簡単に錯覚させる
大学受験や中学受験をする際にほとんどの人が気にするであろう偏差値。例え大して行きたくない大学でも偏差値が高いだけで魅力的に見えてしまいます。特に受験生よりも受験生の親御さんのほうが偏差値を気にする傾向があります。
「子供の気持ちも尊重してやりたいが、行けるならなるべく偏差値の高い大学や中学へ行って将来の選択肢の質や幅を広げてほしい」という多くの親が思っています。
しかしこの風潮を逆手にとって、本来の入試難易度よりも偏差値をあの手この手で高く見せる詐欺行為もたくさん登場しました。
こうした偏差値を操作する行為を一般に「偏差値詐欺」と呼ばれます。違法な行為はしていないので厳密には詐欺とは言えないのですが、大学側が真っ当な教育の質の向上を放棄して、小手先の技術で入試難易度を調整する姿には怒りすら覚えます。
偏差値詐欺をする主体となるのは大きく大学と予備校に分かれます。
- 大学が自分の大学の偏差値を高く見せようとする
- 予備校が偏差値をときに高く、時に低くみせて、無知な親御さんにいらぬ心配をさせて、ビジネスにつなげる
という二つが典型的な偏差値詐欺のパターンです。大学、予備校それぞれの偏差値詐欺の手法を具体的にみていきましょう。
大学が行う偏差値詐欺の手口
1 定員を絞って倍率を高くして偏差値を高く操作する
大学が偏差値や難易度に大きな影響を及ぼすのは入試の倍率です。シンプルに考えると、倍率を高くする方法は、応募者を増やすか、定員を減らすの2つしかありません。
一番簡単なのは一般入試の定員を少なくし、その分を付属の内部進学者や推薦入試、AO入試や後期試験で補います。推薦入試やAO入試は学力試験がなく、むしろ入学者の学力が下がっているのに偏差値が上がる現象が起きてしまいます。
この詐欺的手法を露骨に行ったのが慶應義塾大学の法学部です。
慶應法といえば以前はそこまでレベルは高くなかったのですが、近年急激に偏差値を上げ、看板学部になりつつあります。法学部は推薦入試や内部進学者を増やして、その分一般入試の定員を減らしました。
看板学部である経済学部が、数学ができないと留年するという噂が広まり、付属校から経済学部を志望する人が減り、法学部に人気が移ったことが一つのきっかけです。慶應義塾大学はそのことを隠すためかわかりませんが、内部進学者の進学先を一般に公表していません。
愛知県にある中京大学ではなんと大学内部の人が「定員を減らすことで難易度を維持している」という旨の話を堂々と何の悪気もなくしていてのは、呆れるというレベルではありません。
2009年には大阪産業大学の経営学部の入試で、入学者を減らす目的で、入学意思のない成績優秀者に謝礼付きで受験をさせて、合格者数を変えずに入学者を減らしていたことが問題になりました。これも本来入れるべき人を入れなくする立派な詐欺行為です。
他にも正規合格者をとてつもなく少なくし、補欠合格を大量に出すという詐欺もお一部では起きています。
2 受験科目を減らして受験生のに負担を減らして受験生を増やす
先ほど倍率を上げるには定員を絞るか受験生を増やすしかないといいました。受験生を増やすには、「その大学に行きたくても行けない事情」を取り払えばよいのです。
最も簡単なのは、数学を廃止、もしくはマーク式にする方法です。文系の学部は数学があるというだけで敬遠する人がとても多くいます。私立大学をたくさん受験する生徒にとってみれば、いちいちたくさんの教科を受験するのは面倒です。
本命の試験の前につかれたくないとう人もいるでしょう。そこで試験科目が英語と社会のマーク式にすれば人がたくさん集まるだろうという発想です。
先ほど述べた慶應法も、受験教科が英語、社会、小論文だけな分、対策がしやすく、他の教科に割く時間を回せるので偏差値がインフレしています。ベネッセが発表した最新の偏差値ランキングでは慶應法は84で、東大文一の81を上回っています。
入試問題のレベルと合格点を考慮するとどう考えても東大のほうが入りにくいのですが、こうした逆転現象も起きています。受験科目が少ないと偏差値が上がるのは受験界では常識になっています。何もせずに偏差値を上げられるから様々な大学で行われています。
3 試験回数を増やす
受験生を増やすには「受けたくても受けられない事情を減らす」のがよいと述べました。
受けたいと思っても
「本命の試験と重なる」
「遠くまで受けに行くのが面倒くさいし疲れる」
という受験生は必ずいます。そこで多くの私立大学や私立中学は入試を複数回に分けて行ったり、地方の都市に試験場を設けて、受験生の移動の負担を減らす努力をしています。なかには全学部共通の問題を作って、一斉に受験させるというずる賢い手法も生まれています。
立命館大学がこの詐欺的手法の先駆けといわれています。立命館大学は複数回受験や地方受験を取りいれて偏差値を上昇させ、一時は同志社大学に迫る勢いと言われましたが、他の大学に真似されたことで効果が薄れ、ここ数年でまた偏差値が元に戻りました。付け焼刃の偏差値詐欺は長くは持ちませんでした。
予備校や教育関係者が行う偏差値詐欺
偏差値でサバを読むのは大学だけではありません。例えば予備校が「偏差値40アップ!」と宣伝しても、本当にどのくらい学力が上がったのかはわかりません。
もしそれが一教科だけだったら、比較する模試が違ったらただの詐欺です。
そうです。まさにビリギャルのことです。
偏差値の伸びを実態以上に大きく見せて実績にしようとする人が後を絶ちませえん。では具体的な例を見ていきましょう。
4 模試や会社ごとに母集団のレベルが異なることを利用する
偏差値というものは母集団のレベルによって大きく変化します。周りのレベルが高ければそれだけ偏差値は低く出ます。
一人の生徒が低レベルな全国模試で80をとっても、東大模試では40にも満たない、なんてことはざらにあります。
同じ全国模試でも、ベネッセの模試や進研模試は数字が出やすく、駿台の模試は数字が出にくくなっています。駿台が難しいのは高校受験でも大学受験でも同じです。
中学受験だと、SAPIXの偏差値は四谷大塚より10低く出ると言われています。
こうした母集団の違いをあえて隠したのが、ビリギャルです。普通の学校で学年ビリならどうしようもないですが、中学受験が必要な有名校のビリならそこそこの地頭はあります。母集団が高い中でのビリということを忘れてはいけません。
四谷学院のCMで「偏差値29から北大医学部へ」と言っていた生徒は東大寺学園高校の学内偏差値が29だっただけと判明し詐欺ではないかと炎上しました。
やたらと偏差値を強調する予備校は信頼できません。過去問や模試の点数のほうがよっぽど参考になります。
5 中学受験、高校受験、大学受験の偏差値が違うことを隠す
どの受験方式でも偏差値の出し方は変わりません。変わるのは母集団のレベルです。中学受験が相対的に最もレベルが高いので偏差値が低く出ます。逆に高校受験はほとんど全員がするものなので、簡単に良い偏差値が取れます。大学受験は全員がするわけではないのでやや数字が出にくくなっています。
偏差値50をとる難易度 中学受験>大学受験>高校受験
そのことを利用して、ある予備校が偏差値80の高校の合格実績を宣伝するとき
「 偏差値80と言えば東大レベル。うちの予備校からそうしたレベルの生徒が何人も出ています」
と謳っていました。しかし、高校受験をしたうちの下位層は大学受験をしないことが多いので、大学受験はより厳しい戦いが待っています。
実際に学内の平均クラスの子が東大に行く高校は筑駒くらいです。普通にしていて東大に行けるほうがおかしいのです。おそらく宣伝するほうもわかっていて言ってます。
あまり世間を知らずに、お金持ちの家で育ったお母様の中には、世の中の大半の高校生が大学に進学するものと思っている人もいますが現実は違います。
高校の偏差値から自分の大学のレベルを決めるのはやめましょう。偏差値70の高校から偏差値70の大学へ行くには他の受験生以上の努力が必要なのです。
6 ある教科の偏差値を総合偏差値に見せかける詐欺
わかりにくいので例を出しましょう。私は高校生の頃、東大に行けるレベルの学力がありましたが、どうしても国語が苦手で、東大模試の国語の偏差値はなんと29でした。
そこか少しずつ上げたものの、国語は苦手なまま本番を迎え、他の教科でしっかり点をとり合格できました。
「偏差値29だったけど、東大受かりました」
といっても嘘ではありません。しかし多くの人は詐欺だというでしょう。受験は全科目の総合で決まるからです。
ビリギャルも偏差値を40上げたのは英語の一教科のみです。
英語と国語は比較的差がつきにくい科目です。記号問題が多く、記述も何か書けば当たる。数学0点はいても国語で0点はほとんど聞きません。
その国語や英語で何かとんでもないミス、たとえば解答欄をずらしてしまったらどうなるでしょうか。周りに大きく引き離されてとんでもなく低い偏差値が出ます。
数学なら0点をとる人がいっぱいいるので、例え0点をとっても偏差値はそこまで下がりません。偏差値はまわりとの比較なのでこういうことが起きてしまいます。
偏差値がいくつだったけど・・・という場合は国語か英語の一教科の偏差値である可能性が高いことも覚えておきましょう。
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