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騙されたふりをしたら逆に騙された話
一週間ほど前、詐欺に騙されたふりをした高齢の女性が、本当にお金をだまし取られたことがニュースになりました。「騙されたふりをして犯人を捕まえる」といえば最近よく使われる手法で、成功例も数多くあります。
それでも必ずうまくいくとは限らず、失敗した例や、今回のようにはなから機能していないケースも多々あります。
注意】“オレオレ詐欺”の上をいく新たな手口『だまされたフリ詐欺』が恐すぎる
今回の事件の大雑把な流れを説明しましょう。甥を名乗る男性から、お金を要求する電話があり、女性はすぐに詐欺だと気付きました。警察に通報しようとしたところ、すぐに警察を名乗る人物から連絡があり、詐欺の犯人を捕まえるために騙されたふりをしてほしい、とお願いされました。
犯人を騙すことしか考えていなかった女性は、家にお金を受け取りにきた男性に多額の現金を渡しました。すぐに警察を名乗る人から、「犯人を逮捕した」という電話がありましたが、その後電話がつながらなくなり、お金は返ってこなかったという流れです。
だまされたふり詐欺はもっと根が深い
騙そうとしていたら、自分が騙されていたという点で逆ドッキリと非常によく似ています。もちろんかなり手の込んだ巧妙な詐欺ですが、数年前から結構増えてきてようやく大きくニュースに取り上げられた、といういう印象を持ちます。
実は先月の初めにこの手の相談を受けたところなのでその話もしていきたいと思います。そのケースでは先ほど紹介した女性の話よりももっと巧妙でよく作られていると感じました。
ニュースでは報道されない裏の手口
今回の相談者をSさんとしましょう。Sさんは62歳の女性で、名古屋市内で一人暮らしをしていました。Sさんの息子は少し離れたところに住んでいました。
そんなSさんのところに突然一件の電話がかかってきます。息子を名乗る男性が「会社の金を使い込んだ」と言って1000万円ものお金を要求しました。古典的な詐欺の手口のためSさんはすぐに詐欺と気づきました。
するとすかさず、警察を名乗る人から連絡が来ます。「過去に詐欺に使われた電話番号から電話が発信されると自動的に警察に連絡が行くようになっているため、お電話をさせていただきました。先ほど何か不自然な電話はありませんでしたか?」と尋ねられました。
Sさんは警察の最新システムに感心しつつ事情を話しました。すると警察は、だまされたふりをしてほしいとSさんにお願いします。電話の相手は現行逮捕とは何か、逮捕の条件は何かを刑法の実際の条例を用いて細かく説明した後に、ようやく具体的な行動をSさんに指示しました。
最後にもう一つ忠告がありました。「最近警察を名乗る偽電話が増えています。偽電話を見破るには・・・」と親切にも偽警官からの電話を見抜く方法まで教えてくれました。それからも、作戦実行まで、毎日電話をかけ、忘れないように念を押してきます。
そして作戦実行の当日、無事に(?)お金は詐欺師のもとに渡ったのでした。
3重、4重に張り巡らされた詐欺の罠
第一の罠 警察から電話が来ても不自然でないように仕組む
Sさんの事例は、先週ニュースで大きく話題となったものといくつか違いがあります。まず警察が突然電話をしてきても不自然ではないよう、詐欺に使われた番号からの発信を読み取っていると言って言う点です。この一言がなかったら「どうして警察から電話が?おかしくないか?」と疑問に思うでしょう。
そして警察を名乗る人たちはあくまで「何か変わったことはありませんでしたか?」と聞くだけです。警察が積極的におとり捜査を提案すると怪しいと感づかれるため、このような聞き方をしています。
これは警察が実際に導入している「詐欺に使われた番号に電話をかけ続けて詐欺に使えなくする」というシステムを意識していると思われます。
第二の罠 法律の知識を持ち出して警察官らしさを醸し出す
警察官を名乗る人は自分が詐欺師だとばれないように様々な工夫をします。その一つが専門知識を用いた丁寧な説明です。これは決して法律を理解してほしいからやっているわけではなく
- 法律に詳しい俺って警察官っぽい
- そんな法律を丁寧に説明する俺って優しいし詐欺師っぽくない
という2つから来ていると見ていいでしょう。この場合もいきなりおとり捜査、だまされたふり作戦を実行するのではなく、署内で会議をするふりを見せるケースもあります。
第三の罠 頻繁に連絡することで自分から警察に連絡させなくする
詐欺師側が一番恐れているのは、Sさんが自分から警察に連絡をとり、詐欺だとばれることです。詐欺師のほうから毎日連絡をとることで、Sさん側の不安要素をなくし、自分から電話をかけないようにします。
毎回電話の最後に、明日のいつ電話をかけるかを決めておき、「それ以外の時間に警察に電話をかけても担当者は不在だよ」ということを醸し出す手口もあります。
第四の罠 詐欺師が詐欺の見抜き方を教える
警察を名乗るものから親切にも偽警官の見抜き方を教えてもらうと、ついつい信用してしまう人が多いようです。例えば「必ず最初に自分が勤める警察署を名乗る」など、いかにもありそうな内容です。もちろん偽警官の側は、自分が当てはまらないように注意していますから、余計に信用されます。
だまされたふり詐欺への反応に感じる危機感
この記事がニュースになった際にコメント欄を見ることができました。世間の率直な反応が見られるという点ではとても貴重です。
騙された人が悪いという意見が多々あり、その多くは
「警察から電話が来た時点でおかしいと思えよ」
「現金を用意と聞いたらその時点で怪しいと思えよ」
「自分から警察に連絡すればよかった話なのに」
の3つに分類されていました。確かに3つの意見はどれも間違っていません。しかし、これを見ておけば安心、という思考に罠が潜んでいます。詐欺師も馬鹿ではありません。不自然ではないように日々新たな手口と罠を考案しています。
それなのに「ここさえ気を付ければ、こんな詐欺には合わないのに」という風な意見をしているのはちょっと危機感を感じます。「これからここに気をつければ、少しは詐欺の可能性が減らせるぞ」という新たな対策法が全く提案されていなかったことを残念に思いました。
例えば「おとり捜査の場合あらかじめ警察が偽札を用意する」という見分け方があります。もしも警察を名乗る人からシワシワの偽札を200枚渡されて、
「渡した瞬間に偽札だとばれたら、恐喝にあうかもしれないし、旧札は印象が悪い。一番上の20枚だけ本物と変えてほしい。その分のお金は後で返済する」
と言われて騙される人がいないとは言い切れません。
人を騙すのにはエネルギーがいる
こうして文章で書くと、騙された人に落ち度があるように思えますが、人間にはどうしても冷静さを失う場面は存在します。一つだけいえるのは、人を騙す、嘘をつくのはとてもエネルギーがいる、ということです。ノートルダム大学のAnita Kelly氏とLiJuan Wang氏の研究によりどんな小さな嘘でもつくとストレスがたまることが証明されています。
人を騙すのにエネルギーを使ってしまうと、思わぬ形で足元を救われかねないことも頭に入れておきましょう。